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シェルが歪むとどういう事になるでしょう。美しく均等に歪むことはまず考えられません。ですからヘッドとシェルのエッジ部分(触れる部分)が均一に当たらなくなってしまいます。均一に当たらないとドラムは音をしっかり拾ってくれなくなります。結果として「鳴らなく」なり、鳴らそうと必死にチューニングしても、かえって歪みが増すだけです。要するにしっかりとしたチューニングが困難になり、このままだと使用に堪えない状態になるだろうと予測できます。 Starclassicはどこまでピッチを上げても「ヒジョーによく鳴る」楽器なので、パワーヒッターの私は、金属銅のスネアよろしく「これでもか!」と厚めのヘッドを超パンパンに張る事が、たびたびありました。(だったら金属の6.5インチ買えって)無理な力を掛け過ぎていたのでしょう。十年の年月と私の腕力が、鳴りが命のスタークラッシックの薄いシェルを知らず知らずのうちに痛めてしまっていたのです。「うわあ、こりゃ直んないや」絶望に打ちひしがれたまま、とりあえず行きつけの池袋のショップに持ち込みました。
いや、そんなこと言われると照れますな。でもそりゃ褒めすぎでしょう。ちなみにこのMさんという店員さんはガッツがあって「無理」とか「ダメ」を言わない人。客を持ち上げるのが上手くて(笑)いつ行っても「何か買っていこうかな」と思わせるのが非常に上手な、店員の鑑のような方です。
電話でTAMAの方に確認していただいた内容は、ある程度想像した通りでした。まだキレイだし、今のところしっかり鳴ってくれているので、「このまま薄いヘッドで、騙し騙し使うのも一つの手かな…」と思いつつも、このスネアには思い入れもあるし、「いいコンディションで働き続けて欲しい」と願って、結局「修理」してもらう事にしました。とりあえず現物を送り、TAMAの方に実際に見てもらって、何かうまい方法がないか探してもらう事にして、結果「どうしようもない」なら諦める。というわけで、SMS1465(アクアマリン)を預けることにしました。 数日後ショップから電話が来ました。
このスネアのアクアマリンという色は、既に廃盤になっているカラーで、現在あるカラーチャートから選ばなくてはなりません。私のセットはテキーラサンライズなので、それに合わせても面白いかもしれません。
カラーもシェルも、結局その日に決められず、1日待ってもらい、明日ショップに行って直接結論を伝える事にしました。 薄ければ薄いほどシェルはよく鳴り(振動し)ます。またシェルはボルトを止める為のパーツを取り付ける役目もあるので、強ければ強いほどドラムは安定し、多少繊細さは少なくなりますが、ショットのパワーに応じて大きな音が出ます。ハイファイ的に考えると「シェルもよく鳴らし、繊細でかつ大きな音を出したい」と思うもの。この相反する問題へのひとつの回答である、TAMAご自慢の10プライ5mmというStarclassicの超極薄シェルは、ヤンキース松井選手のバットにも使われる堅い木「メイプル」の超薄スライス10枚重ねの堅くて強力なシェル。しかし、スゲエと思いつつも、見た目は薄くて華奢に感じるので「こんなに薄くて大丈夫なのか?」という印象は少なからず持っていました。 私がSMS1465を購入して1〜2年ほど経過してから、Starclassicは大きなマイナーチェンジをしました。『サウンドフォーカスリング(SFR)』という(他メーカーでは「レインフォースメント」と呼ばれる)シェルの補強材を付けたモデルが追加発売されたのでした。レインフォースメントとは、いわゆる「ヴィンテージ物」のスネアなどに多く、いい素材や製法が無かった時代に、ドラムの変形を防ぐ為のまさしく「補強」だったのですが、薄く堅いしっかりとした木胴シェルを造れるようになった今でも、その補強材を付ける事によってしか得られない、ふくよかなオールドサウンドを求めるユーザーにウケています。先日購入した私のStarclassicセット(TQS)でも、全てのドラムをSFR付きのモデルにしてあります。TAMAのレインフォースメント「サウンドフォーカスリング」はその名前の通り、倍音が整理されるというか、基音がハッキリするというか「これが同じスネアなの?」と、当時試奏してみて結構な音の違いに驚いたのを憶えています。「パーン」と弾ける通常シェル、明るさそのままでより芯のある「ビシッ」としたサウンドのSFR付き、どちらの音も魅力的で困りました。昔試奏した印象では「深さ5.5インチなら『通常』モデル、私の使っている6.5インチなら『SFR付き』かなあ?」と思っていたのですが、いざ「さあ交換出来ますよ」となると非常に悩みました。 SFRを付ければ音が変化する その音は以前聴いて好印象 しかし元のスネアの音では無くなる TAMAは「どちらでもいいですよ」と言ってくれている そして1日が経過しました。私の下した決断は・・・ 「シェルはサウンドフォーカスリング付き、カラーは私が考えたオリジナルカラー」 ショップのMさん苦笑いですが、私は真剣そのもの。とりあえずTAMAにオリジナルカラーでのオーダーが「可能かどうか」訊いてもらう事に。TAMAの回答は「オリジナルカラーは『追加料金』を支払えば対応可能」とのこと。TAMAの担当の方は、私が現行のカラーチャートに不満があると思われたらしく、親切にも「以前のアクアマリンがいいなら、なんとか追加料金ナシでやりますよ。」とまで言ってくれました。しかし私の考えは変わらず。 「俺は音楽やる為に仕事してるんだ!金なら出すぜ!」(←ここまでは言いませんでした) 「10周年のこのタイミングで楽器が生まれ変わるなら、それに見合った姿にしてあげたい。」 てな感じで頑なにお願いしました。 それからしばらく経過し、落ち着いてよくよく考えてみると、購入から10年も経過した修理不能の楽器に、特別価格の交換修理の手を差し伸べてくれたメーカーさんに対して、追加料金払ってでも「オリジナルカラー」にこだわった大変失礼で愚かな私。傲慢でした、非常に反省しております。プロでもないのにゴメンナサイ。星野楽器の担当の方、お名前は存じませんがこの度はお骨折り頂きましてありがとうございました。 でもおかげさまで、こんな素晴らしい世界でただ一つしかない、文字通り「私だけの」スネアが誕生しました。10年前アクアマリンに惚れて購入した私、10年経つと人の趣味も変わってくるものだと思いました。 10年間変わらぬ愛を、この生まれ変わったスネアドラムに送ります。 インプレッションはまたの機会に。
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