今までご紹介した数々の奏法ですが、頭で分かっていても体で表現出来なければ結局はムダな知識です。私も大量の時間と労力をかけてこんなページを作ってるよりは「もっと練習した方がイイ」と思う事もあります(笑)。でもまあ知識の整理と言う意味合いも含め、お互いの向学のためにも、もうしばらくお付き合いくださいね。
先程も書きましたが、今まで紹介してきたこれらの奏法とは別に「踏んだ後のビーターの状態」という別の切り口から見た場合、奏法は二種類に分かれます。それは「クローズド奏法」「オープン奏法」です。
クローズド奏法の場合
ビーターが接触し続けてしまうために、フロントと打面側のヘッドの共鳴を止めてしまうので、音符の短い「ドッ」というタイトなサウンドになる。
オープン奏法の場合
ビーターがすぐ打面側から離れるので、フロントと打面側のヘッドが共鳴し、音符の長い「ドン」もしくは「ドォン」というふくよかなサウンドになる。
上の画像をご覧頂けばお分かりの通り、ヒットした後の「ビーターの状態」はバスドラのサウンドに大きく影響を与えます。当たり前ですが、ヘッドにビーターが接触し続けていると、結果として打面を「ミュート」してしまう事になるからです。ちょっと前まではタイトなサウンドが得られるクローズド奏法全盛だったのですが、最近は太鼓の鳴りを活かしたオープン奏法をするドラマーが(実感として)非常に増えました。トレンドなんでしょうかね(笑)。

でも、奏法ひとつで
長い音や柔らかい音が「出そうと思えば出せる」のと、「そもそも(出にくいのではなく)理論的に出ない」のとでは、やはり後者に表現の幅に関する制約が出てしまいます。無論どちらの奏法も操れた方がいいに決まっています。

かくいう私も、上記の理由も含め個人的に「何か苦手なモノ」や、「ちっとも出来ないモノ」があったりするのが嫌なので、前述のビーターを離して演奏するスタイルの各種オープン奏法を遅まきながら練習しています。」

ここまでのまとめ
シングルストローク
オープン奏法
クローズド奏法
ヒールアップ
-
ヒールアップ+
-
ヒールアップ++
-
ヒールダウン
フルフット
-
ダブルストローク
オープン奏法
クローズド奏法
スライドステップ
アップダウン
-
ダウンアップ
ダウンアップ+
-

ところで、オープンなサウンドを意識した最近の傾向、
実は奏法だけではありません。

それはドラムそのものの設計だったり、あるいはこんな事だったり・・・

ここで昔話を一つ。
高校の終わりに「卒業ライブ」なるものを(部員が多かった事もあり)学校ではなく贅沢にもライブハウスを一日借り切ってやりました。ライブハウスを借りた本当の理由は先生に来られると何かとマズかったからです(笑)。

その(もうだいぶ以前に潰れて無くなってしまった)渋谷のとあるビルの6階にあった某ライブハウス(笑)はドラム持ち込みだったので、先輩からクルマを借りて部室からドラムセットを運びましたが、持ち込むバスドラのフロントヘッド(お客に見える側のヘッド)が破れていてみすぼらしかったので、慌ててショップに買いに行った記憶があります。そしてライブ当日のサウンドチェックの際、私の買ってきた穴の空いていないフロントヘッドのバスドラを見るや、サウンドエンジニアの方から大声で「君たちロックやるんでしょ?、穴を開けないと和太鼓みたいな音になるけどそれでもいいかなあ?」と嫌みったらしく言われました。

あー嫌なヤツ(笑)

フロントヘッドに「穴が空いてないといけない」なんて知りもしませんでした。こっちはマイクを立てるようなライブハウスなんて初めての経験。リハーサルまでには時間もありません。大慌てでカッターを買ってきて、恥ずかしくて顔を真っ赤にしながら、友人達に手伝ってもらい、言われるがままに必死にフロントヘッドに穴を開けて事無きを得ました。

それにしても明らかにその日、ライブハウスのスタッフ全体から「高校生のガキがライブハウスなんか借りやがって・・・」という匂いがプンプンしていました。ま、潰れるのも当然ですね(笑)
ポピュラー音楽におけるドラムセットの中の「バスドラ」というものは、以前から(少なくとも私がドラムを始めて以降しばらくは)客席側から見えるフロントヘッドに穴が空いている事が普通でした。その穴は中央に大きく空いていたり、また中央をずらして小さめに空いていたりしました。穴が空けてある理由はバスドラ内の空気の逃げ道を作り、音抜けを良くしてサウンドをタイトにするためだったり、またライブやレコーディングなどの際の所謂「マイクを差し込む為の穴」として使うためです。

鼓笛隊の大太鼓を想像して下さい。表と裏の皮を塞いでしまうと大太鼓はその質量(ヘッド)の大きさから、一度鳴らすと「ドーン」と前後のヘッドが反響し続け鳴り過ぎてしまいます。
ちなみに鼓笛隊では大太鼓の音の長さをコントロールしたり、鳴り過ぎを抑えるために、反対側の手はヘッドを押さえるミュート役にまわります。
ロックをはじめ「ドンッ」とか「ドッ」などといったタイトなサウンドがウケていた時代。先程も書きましたがポピュラー音楽では(その大太鼓の「ドーン」というサウンドが必要な一部のジャズドラマーさんを別にすれば)穴を開ける事は「ごく当たり前」でした。しかし最近のドラマーの中にはジャズ奏者以外でも、フロントヘッドに「穴を開けないスタイル」の人が増えてきています。
REMO 打面側ヘッド
EVANS フロントヘッド(穴空き)
穴の空いていないフロントヘッド
もちろんアメリカREMO社製の「最初からミュートが付いているヘッド」や、同EVANS社の「ピンで刺したような小さな穴が縁部分一周に空けてあるヘッド」など、穴を空けなくてもある程度タイトなサウンドを演出できる「皮素材」そのもの進化も見逃せませんが、最近ではジャズに限らずセッティングや取り回しに優位な18インチなどの「小口径バスドラ」が見直され、小口径でもむしろ「穴を開けない」事による太鼓本来の「自然でふくよかでオープンな、ありのままの鳴り」が求められるようになってきました。また、その際のマイキング(集音マイクのセット)の方法は色々あるらしいのですが、ヘッドにマイクを差し込む穴がないこの場合、例えば最初からバスドラの内部にマイクを仕込んでバスドラ全体の「鳴り」を獲ったり、あるいは同時に打面側のヘッドに向けて「アタック音のみを獲るためのマイク」をセットしたりするそうです。

2本のマイクの音をライブやレコーディングの時にミックスして使うなんて贅沢でカッコいいですね。でも、

打面側のヘッドにマイクを向けられる・・・

実をいうとこれは、今の私にとって「致命的な状況」になりかねません。それはフットペダルと靴のノイズ、そしてダブルストローク時のビーターのノイズです。皆さん、私の悩みを聞いてくれますか?(笑)<続く

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